大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(ネ)4603号 判決 1999年6月29日

東京都品川区東大井一丁目九番三七号

控訴人

株式会社加藤製作所

右代表者代表取締役

加藤正雄

右訴訟代理人弁護士

野上邦五郎

杉本進介

冨永博之

右補佐人弁理士

御園生芳行

神戸市中央区脇浜町一丁目三番一八号

被控訴人

株式会社神戸製鋼所

右代表者代表取締役

熊本昌弘

右訴訟代理人弁護士

本間崇

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金一三億一八三九万円及びこれに対する平成七年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  仮執行宣言

第二  事実関係

次のとおり、付加、訂正するほか、原判決の「第二 事案の概要」(二頁末行ないし一〇三頁一〇行)に記載のとおりである。

一  誤記等の訂正

1  原判決二二頁六行「二重樋状案部材」を「二重樋状案内部材」と改める。

2  同二八頁二行「本件と特許発明」を「本件特許発明」と改める。

3  同三八頁九行「19欄」を「10欄」と改める。

4  同六七頁二行「事態」を「自体」と改める。

二  控訴人の主張

原判決六三頁一〇行の次に、改行して、次を加える。

「(四) 原判決は、従来技術のアウトリガの構成と実施例についての記載を本件発明の二重樋状案内部材が強度保持機能を有するものを含まないことの理由とするが、これらの点をどのように参酌すると本件発明の二重樋状案内部材が強度保持機能を有するものを含まないことになるのか、その根拠は全く示されていない。

本件明細書の発明の詳細な説明の実施例の欄には、「二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく」(10欄9行~11行)と記載され、さらに、二重樋状案内部材を軽量にできることが記載されているにすぎないのであるから、これらの記載から二重樋状案内部材が強度保持機能を持たないものだとまではいえないはずである。

また、控訴人が本件特許権の無効審判請求事件の再答弁書で「本件特許明細書においては、頂部の開放しないものが本件発明の二重樋状案内部材に当る旨の記載は全くなされていない」と述べているとしても、それは、本件発明の「二重樋状案内部材それ自体の形状」についてのことであり、「二重樋状案内部材と筒状アームが結合した形状」についてのことではないから、控訴人が右のようなことを述べたからといって、それによって本件発明の二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合したものを排除していることにはならない。二重樋状案内部材と筒状アームが上下に一体になったものも、水平ビームからの極圧Rを直接筒状アームに伝える点で、本件発明の実施例のものと何ら違いはないものである。

以上のとおり、原判決のこの点の判断は全く理由がない。」

三  被控訴人の主張

1  原判決六六頁四行、五行を次のとおり改める。

「二重樋状案内部材を筒状アームに下から付着させ、一体のものとすることにより、二重樋状案内部材の天板の位置を占めることとなった筒状アームの底板に極圧Rがかかると、極圧Rは、一旦筒状アームの底板で受け止められた結果、筒状アームを経て車体フレームへ伝わるばかりでなく、かなりの割合で二重樋状案内部材の天板の部分から、それと一体となるに至った側板に伝わり、二重樋状案内部材の全体へ応力が分布されることとなる(乙第二四号証参照)。その結果、このように一体に構成したものは、二重樋状案内部材と筒状アームとを別体に構成し、二重樋状案内部材にかかる応力を極めて小さくして水平ビームの案内機能と水平ビーム伸縮時における支持部材の振れ止め機能のみを持たせ、軽量に構成させようとする本件発明の二重樋状案内部材とは異質のものとなり、本件発明の目的の一つである二重樋状案内部材の軽量化が達成されないこととなるものである。」

2  同六八頁九行の次に、改行して、次を加える。

「(五) 控訴人は、原判決が本件発明の二重樋状案内部材が強度保持機能を有するものを含まないと判断したことを争っている。

しかしながら、原判決は、本件明細書の記載中、特に「従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材)により受止めた後、これを更に車体フレームに伝達するもの」(10欄14行~17行)の記載を引用して、本件発明が従来技術として念頭に置いていたタイプのものを表現して本件発明と対比している。

また、控訴人が、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例の欄には、「二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく」と記載されているにすぎないから、二重樋状案内部材が強度保持機能を持たないものだとまではいえないと主張する点も、強度保持機能を持たせる必要がないからこそ、強度保持機能を持たない構成のものとしても差し支えがないから、本件発明は、二重樋状案内部材が強度保持機能を持たないものとして構成したのであり、原判決もその旨を判示しているものである。

さらに、原判決が引用した控訴人の無効審判の過程における主張(原判決一一三頁一〇行ないし一一九頁七行)によれば、控訴人は、本件特許権の無効審判請求事件で、従来のアウトリガは水平ビームからの極圧Rを水平基筒の頂部対応部を介して伝えていたが、本件発明では、二重樋状案内部材は水平基筒にあった頂部を欠落して開放されているので、その頂部で極圧Rを受承することがなく、二重樋状案内部材を介することなく、極圧Rを筒状アームを介して車体フレームに伝える旨を明確に主張していたものであり、右無効審判の過程における控訴人の主張は、本件発明の二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合するものを排除するわけではないとする控訴人の主張に、説得力がないことは明らかである。

したがって、原判決の右判断に何ら誤りはない。」

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載、本件特許権の無効審判請求の過程における控訴人の主張に照らすならば、本件発明の構成Aは、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものは含まないと解すべきところ、被告製品の構成Aにおける二重筒状部材は、水平ビームの案内機能や水平ビーム伸縮時における支持部材の揺れ止め機能等を有するだけではなく、極圧Rを支承する強度保持機能を有するものであるから、被告製品の構成Aは本件発明の構成Aを充足しないと判断するものであるが、その理由は、次のとおり、付加、訂正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」(原判決一〇三頁末行ないし一二七頁三行)に記載のとおりである。

一  誤記等の訂正

原判決一二〇頁一行「介することなく」の次に、「筒状アームを介して」を加える。

二  原判決一一三頁五行の次に、改行して、次を加える。

「 なお、控訴人は、「本件発明の構成Aは二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものは含まないものと解すべきである。」(原判決一一三頁三行ないし五行)との判示は、「従来の水平基筒のように極圧Rをそれだけで支えられるもの」は含まないとの意味である旨主張するが、右判示にいう「二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のもの」とは、「二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果、アウトリガの使用時における極圧Rの相当程度を負担するような構成のもの」を意味するものである(したがって、控訴人の主張のうち、右判示が「従来の水平基筒のように極圧Rをそれだけで支えられるもの」は含まないとの意味であることを前提とする主張は、そもそもその前提を欠き、理由がないものである。)。」

三  原判決一二三頁五行ないし七行を次のとおり改める。

「 控訴人は、本件発明の実施例のものにおいても、極圧Rの一部は二重樋状案内部材に働く旨主張するが、乙第二四号証によれば、二重樋状案内部材に相当するものと筒状アームに相当するものとを一体に結合した被告製品においては、二重樋状案内部材に相当するもの(二重筒状部材)に極圧Rに起因する多大な応力が発生しているのに対し、かすがい状支持部材を使用し、二重樋状案内部材と筒状アームとを別体に構成した本件発明の実施例のものでは、二重樋状部材に極圧Rにより応力が生ずるとしてもごくわずかなものにすぎないことが認められ(なお、二重樋状案内部材と筒状アームとを別体に構成するが、かすがい状支持部材を使用しない場合に、二重樋状案内部材により大きな応力が生ずることがあるとしても、それは、極圧Rではなく、極圧Qに基づくものと認められる。)、両者の間には、極圧Rの存在にもかかわらず二重樋状部材を軽量化することができるか否かの点で大きな違いがあるから、本件発明の実施例のものにおいても極圧Rのごく一部が二重樋状案内部材に働くことは、前記解釈を左右するものではないといわなければならない。」

四  原判決一二五頁四行の次に、改行して、次を加える。

「(三) 控訴人は、本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載、本件特許権の無効審判請求の過程における控訴人の主張に基づく本件発明の構成Aは、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものは含まないと解すべきであるとの判断(原判決一〇五頁一行ないし四行)を争うが(前記第二、二)、その主張は、前記に説示のとおり、本件明細書の記載の一部を全体から切り離して論じ、本件特許権の無効審判請求事件の再答弁書で自ら述べたことの趣旨を否定することに基づくものであり、それらが理由がないことは前記判示のとおりであるから、控訴人の右主張は、到底採用することができない。」

第四  結論

よって、本件控訴を棄却することとする。

(口頭弁論終結の日 平成一一年五月一八日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例